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2011/11/28 10:35 【故書探訪2】『点と線』(松本清張/新潮文庫)

 小説全体に流れているイメージが何となくモノクロだ。それは風景描写に色彩がないということではなくて、全編を流れるずっしりとした淀み、重たい雰囲気が昭和の今やレトロになった時代の空気だし、その頃TVから流れていたであろうドラマのイメージなのだ。あの頃私達は「キーハンター」や「特別機動捜査隊」や「ハングマン」等々、多分今見れば懐かしいだけの推理アクションドラマに夢中になった。高度成長の影で社会的弱者や私欲にまみれた金持ちたちを描いたドラマは、今思えばずいぶん社会派のドラマだった。いつの時代にもその時代の世相を反映した風刺作品はあるものだが、昭和の高度成長期をシニカルに描いた作家として松本清張の右に出る人はいないだろう。
 我々は純粋な推理作品としての楽しみと、昭和の時代世相を味わえるという二つの楽しみを持つことが出来る。しかもその両方ともが間違いなく最高品質だ。 978-4-10-110918-3

2011/11/15 16:30 【故書探訪1】阿片戦争(陳舜臣・講談社文庫ほか)

社会の衰退にはいろいろな理由があると思う。政治の堕落、官僚の腐敗・・・。しかし、そこに同時に進行しているのは必ず国民の無気力や無関心、社会に対する閉塞感だと思う。現代のの国際社会の中で、どんなに弾圧されても止むことのない民主化運動、自国の経済危機を目の当たりにして熱狂するヨーロッパの市民を我々はTVや新聞を通して知ることができる。すべてのことが事実かどうかは別として、彼らは自己や身内や仲間たちの生活や将来を防衛するために行動を起こしていることは確かだろうと思われる。その目を転じた日本の状況はまさに清時代の中国の「衰世」の状況に重なるのである。そんなふうに思いを巡らせながら読んだ陳舜臣氏の『阿片戦争』は私の胸をぐっと締め付ける。連維材や林則徐の生き方に感動を憶えると同時に真のリーダー不在の日本の状況が憂えてならない。さて、そうは言ってもこの作品は圧倒的な冒険ロマンである。主人公をはじめ登場人物たちの生き生きとした描写は私をこの小説の舞台に引き込んでくれるし、ハラハラさせられ通しのストーリー展開は息つく暇も与えてくれない。けっして窮屈なお仕着せの説教書ではないのだ。