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K-ボイス

歴史への招待 81) 鳳雛の夢

2017/12/21 5:57:

伊達正宗、幼名は梵天丸。
伊達家当主輝宗と出羽国主最上義守の娘義姫との間に出来た嫡男である。
五歳の時に患った疱瘡により、顔にあばたが残った。だけでなく疱瘡の毒が右目に入り、右目は失明、しかも腫れによって眼窩から大きくはみ出している。
端正な顔立ちだった梵天丸は、醜く変貌し周囲の人々から疎まれ、最愛の母からも忌避されるようになってしまった。

梵天丸は、醜い顔を隠すように、うつむいたままで目立たず、声も出さないような子となった。
周囲の者には、大人しい、覇気がないと評判は最悪だったが、一人父輝宗だけは、梵天丸を愛し続けてくれた。
病が癒えると、父は禅僧虎哉宗乙(こさいそういつ)を、梵天丸の師として付けてくれた。
宗乙は、梵天丸に憤怒の表情で睨みつける不動明王の仏像を見せ、「不動明王は悪しきを追い払う降魔の仏。内にあるは、衆生を慈しみ守る優しい心」「そなたも伊達の惣領として守る側なのだ」と諭した。
「伊達を守る為に近隣を取る。征服した地の民も伊達の民、その民を守る為に、さらに周囲を併呑する。天下を統一すれば戦はなくなる」天下制覇のために宗乙は厳しく梵天丸を鍛えた。

初陣で城一つ。
元服し藤次郎正宗となった梵天丸は、十六で初陣を迎えた。
宿敵、相馬氏と大内・畠山の連合軍に、父輝宗は伊達の全軍を投じて迎え撃った。
正宗は、別働隊三千を率い、相馬方の金山城を攻めると見せて、別の金津城を攻めた。あわてて救援に赴いた相馬方の陣形の乱れを父の主力軍とともに撃ち、金津城を落とした。
「初陣で城一つ。古来稀なり」と父に絶賛された。

父をわが手で。
若くして当主となった正宗は、近隣を苛烈に攻め立てる。若年の当主と侮られないようにと抵抗する者を撫で斬りする正宗を危惧する輝宗は、畠山義継の降伏を仲介しようとするが、不覚にも質にとられ連れ去られようとする。
国境まで追跡した正宗は、遂に決断し父輝宗もろとも畠山勢を銃撃し、父を死なせてしまう。

惣無事令と宿敵葦名。
その後も、正宗は近隣の畠山、二階堂、葦名などとの攻防は一進一退、奥州制覇は夢のまた夢だったが、天下は大きく動いていた。
秀吉は、毛利、上杉、徳川らを傘下に納め、惣無事令に背いたとして九州を征伐、島津を下した。
焦る正宗は、葦名家重臣猪苗代盛国を調略し、遂に宿敵葦名を滅ぼした。
しかし、秀吉の惣無事令に背くことは明確で、しかも葦名は秀吉に臣従していた。

雌伏の日々
秀吉が北条征伐に20万の大軍を動員するに及び、遂に正宗は決断し秀吉に膝を屈する。
奥州制覇の夢を捨てたわけではないが、如何せん、天下の定まるのが早すぎた。
しかし、葦名の旧領会津は召し上げられるが、正宗の首はつながった。

その後も、奥州征伐で改易された諸家の旧臣らの一揆を支援したり、ポスト秀吉の関白秀次に接近し、二度死にかけているが、したたかな正宗は窮地を切り抜け、関ヶ原でも奥州制覇に向けた独自の動きをみせる。
風雲児正宗は、生まれてくるのが遅すぎた。しかし戦国の世も終わりを告げた徳川の時代、外様の改易が続く中にも、したたかに伊達家を守り通し、奥州制覇の夢を捨てることはなかった。


「鳳雛の夢」上巻 上田秀人著 光文社時代小説文庫 978433477550
「鳳雛の夢」中巻 978433477551
「鳳雛の夢」下巻 978433477552



橋本

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